無邪気な笑顔のもとで(part2)

うららかな太陽の光が差し込む昼下がりの午後───
竜崎正哉は彼女たちと待ち合わせをしている駅前の広場に向かうため、全力で走っていた。
───しまった、完全に遅刻してしまった!
竜崎正哉は腕に巻いたデジタル時計を一瞥すると、さらに走るスピードを上げた。そのかいがあり、20分かかるところを10分で広場にたどり着くことができ、30分の遅刻を20分に縮めることができた。
待ち合わせの場所となっている広場に入ると、そこには同じ顔をしたふたりの少女が待っていた。年の頃は小学生ぐらいで、赤いリボンで結ばれた小さなツインテールが愛らしい女の子だ。そう、彼女たちは双子で、左側にいる少女が姉の雛菊らら、右側にいるのが妹の雛菊るるという。
双子の姉妹は正哉の姿を見ると、いかにも幼い子供らしい無邪気な笑みを浮かべ、こちらに駆け寄って来た。
「わーい!おにいちゃんだー!」
まずるるが勢いよく正哉の右腕にしがみついた。
「あ、るぅちゃんってば、ずるいっ!それなら、ららだって、えいっ!」
ららも負けじと反対側の腕に抱きつく。
「おにいちゃん、はやく行こっ!」
「おにいちゃん、こっちだよ!早く早く!」
「ち、ちょっと・・・」
元気のいい小学生たちは正哉を問答無用で引っ張って駆け出した。
正哉たちが向かった場所は、駅前から出ているバスに乗り、15分ほどのところにある遊園地だった。
園内にこだまする無邪気な子供の笑い声。
行き交う人々に風船をくばって歩くマスコットの人形たち。
緑の芝生が敷き詰められた広場。
園内は休日ということもあってか、家族連れを筆頭に多くの客で賑わっていた。
「おにいちゃん。るぅ、アイスクリームが食べたいな」
「そうか。それじゃあ、あそこの売店で買おうか」
「うん!」
るぅが嬉しそうに大きくうなずく。
正哉はるるとららを連れて近くにあった売店に入った。
「いらっしゃいませ」
売店の店員が正哉たちを笑顔で迎える。
「ふたりとも、何がいい?」
「るぅはイチゴのアイスクリームがいいな」
「ららはチョコがいいな」
「そうか。僕はバニラにしようかな。すみません、ストロベリーとチョコレートとバニラをひとつずつお願いします」
「ありがとうございます。全部で600円になります」
正哉はお金と引き換えに、店員からアイスクリームが乗ったコーンを受け取ると、るるとららに渡した。
「わーい、アイスだー」
アイスクリームを受け取ったるるは、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、おにいちゃん」
ららもるると同じように喜びをあらわにした。
「向こうのベンチに座って食べよう」
『はーい』
正哉たちは近くのベンチに腰掛けると、アイスクリームを食べ始めた。
「ほら、ふたりとも、ほっぺにクリームがついてるよ」
正哉はハンカチを取り出して、両隣にいる双子の姉妹の頬を拭った。
「エヘへ、おにいちゃんに拭いてもらっちゃった」
るるが無邪気な笑みを浮かべる。
「あ、おにいちゃんのほっぺにもクリームがついてる」
ららはそう言って立ち上がると、正哉の左頬を小さな舌でぺろりと舐めた。
「な・・・!」
正哉は突然の出来事に絶句した。
「ごちそうさまでした、クスクスッ」
ららは、いたずらに成功したような感じの笑みをこぼした。
「あー!ららちゃん、ずるい!るぅもするー!」
今度はるるが立ち上がって、何もついていない正哉の右頬を同じようにぺろりと舐めた。
「え・・・!」
ふたたび驚きの表情を見せる正哉。予期せぬ出来事とはまさにこのことであった。
「え、えっと・・・」
驚きが薄らいだ瞬間、恥ずかしさが急速に込み上げ、正哉は顔を真っ赤にさせた。
「ん、おにいちゃん、顔が真っ赤だよ」
「あ、ちょっと急に熱くなっただけだから、気にしないで」
正哉は不思議そうな顔をしている、るるに向かってそう答えた。
「クスクスッ、変なおにいちゃん」
ららは、すっかり舞い上がっている正哉を見て、ふたたび可愛い笑い声を出した。正哉がそんなふうになった原因が自分たちにあるとは、まったく気づいていないようだった。
───深い意味があってやったわけじゃないのに、なんで僕はこんなにうろたえているんだ・・・
正哉は懸命に己を落ち着かせようとしたが、なかなかうまくいかなかった。
些細な子供のいたずらと思えばいいのだが、今の正哉はそう思えるほど冷静ではなかった。幼いといえど、異性だという気持ちが先行していたからである。
───これからが大変だな・・・
正哉は今後のことを考え、心の中でため息をもらした。