公園でのデートにて(part3)
───これなら予定どおり5分前にはたどり着くな。
私は腕に巻いたデジタル時計を一瞥して時間を確認すると、駅前の交差点の横断歩道を渡った。
そして、計算どおり5分前に、待ち合わせの場所となっている広場に入ると、そこにはす
待ち合わせの場所となっている広場に入ると、そこには同じ顔をしたふたりの少女が待っていた。そう、彼女たちは双子で、左側にいる大人しそうなツインテールの少女が姉の白鐘双樹、右側にいるややきつい顔つきをしたストレートヘアの少女が妹の白鐘沙羅という。顔は同じだが、対照的な雰囲気を持っている姉妹である。
私が彼女たちのもとにたどり着くと、双樹が嬉しそうな笑みを浮かべ出迎えた。
「ありがとう、おにいさん、来てくれて。双樹はとっても嬉しいです」
「ふん、やっぱり来たのか・・・」
一方、沙羅のほうは無愛想な表情を浮かべていた。
「すまない、待たせてしまってようだな」
私は申し訳なく思いながら謝った。
「そんな、気にしないでください。双樹はおにいさんがこうして来てくれただけで十分嬉しいです」
双樹は屈託のない笑みを見せた。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
「ふん」
私の言葉に双樹と沙羅は対照的な返事をした。
私たちが向かった場所は、駅前のそばにある公園だった。この場所を選んだのは、双樹の希望によるものである。
たおやかな陽光が降り注ぐ園内は、和やかな空気に包まれ、とても心地よかった。
「あ、あの、おにいさん・・・実はおにいさんにお願いがあるんだけど、いい?」
私の隣を歩いていた双樹が顔を真っ赤にさせながら話しかけてきた。
「どんなことだ?」
「それは・・・今日、ここで私とキスしてほしいの」
「そ、双樹・・・!」
いきなりの爆弾発言に沙羅が絶句した。
「どうして急にそんなことを言うんだ?」
私も意外すぎる頼みに驚きと疑問を隠せなかった。
「あのね、双樹ね、今日がおにいさんとの初デートだから、その記念にキスしてもらいたいの。それに、おにいさんとキスしたら、双樹がおにいさんの彼女だっていう証にもなるから・・・」
「本当にいいのか?」
「うん・・・」
双樹は顔を上げ、まっすぐ私を見つめた。そこには固い決意がうかがえた。
「双樹、おまえ・・・」
「いいの、沙羅ちゃん。これは私が決めたことだから」
「・・・」
沙羅はしばらく双子の姉の顔を凝視したあと、私のほうに顔を向けた。
「双樹がそこまで決めているなら仕方ない。私は認めたくないけど、おまえのことを認めてやる。でも、双樹だけにキスをするのは許さない。だから、私にもキスしろ」
「沙羅ちゃん・・・」
今度は私と双樹が驚く番だった。
「・・・分かった。それなら私の前に立って目を閉じてくれ」
「はい・・・」
「・・・」
双樹と沙羅は私の言うとおり前に立って目を閉じた。
ふたつの同じ顔が同じようにほんのりと朱色に染まり、かすかな震えを帯びている。
私はそんな彼女たちの姿が愛しく思えた。
私は小さく屈むと、彼女たちの額にそっとキスをした。
『あ・・・』
次の瞬間、ふたりは同時に目を開け、驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべた。
そんな彼女たちに私はこう語りかけた。
「そんなに急ぐことはない。本当のキスは、もっと私のことを知って、本当におまえたちの恋人に相応しいかどうか決めてからすればいい。私はそれまでずっと待っている」
「そ、そうだな・・・確かにキスはまだ早すぎるよな・・・」
沙羅は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。
「おにいさん・・・分かりました。そのかわり、私たちにおにいさんのことをいろいろと教えてね。双樹はおにいさんのことをいろいろと知りたいです」
「分かった」
私は小さく笑って双樹の願いを快諾した。
「ありがとう、おにいさん!」
「わ、私は別におまえのことなんて知りたくもないけど、双樹が知りたいっていうから、おまえのことを知ってやるよ」
双子の姉妹が無邪気な笑みと不機嫌な表情を私に見せる。
そんな対照的な彼女たちを見て、私の顔から自然と笑みがこぼれた。