楽しさ２倍の遊園地！？(part1)
浜貝憲吾は彼女たちと待ち合わせをしている駅前の広場に向かうため、全力で走っていた。
───まずい、完全に遅れてしまった！
憲吾は腕に巻いたデジタル時計を一瞥すると、さらに走るスピードを上げた。そのかいがあり、２０分かかるところを１０分で広場にたどり着くことができ、３０分の遅刻を２０分に縮めることができた。
待ち合わせの場所となっている広場に入ると、そこには同じ顔をしたふたりの少女が待っていた。そう、彼女たちは双子で、左側にいるポニーテールの少女が一条薫子、右側にいるショートカットの少女が一条菫子という。どちらが姉でどちらが妹なのかは、本人たちも知らないということだった。
双子の姉妹は憲吾の姿を見ると、満面の笑みを浮かべ、こちらに駆け寄って来た。
「こーんにちはっ！なかなか来ないから少し心配しちゃったけど、こうして来てくれたから安心したよ」
薫子は声を弾ませて胸のうちを語った。
「遅くなってごめん」
憲吾は申し訳なさそうに謝った。
「ううん、気にしないで。でも、今度からはできるだけ時間どおりに来てね」
「ああ。今度から気をつけるよ」
自分自身に反省を促す。
「私は全然心配しなかったよ。だって、あなたが約束を破ったりしないって信じていたもん」
隣にいた菫子はまったく心配していない様子であった。
「ありがとう。でも、今度はきちんと時間どおりに着くようにするよ」
憲吾は菫子にも頭を下げた。
「この次から気をつけてくれたらいいわ。それより、早く行きましょ」
菫子はそう言って、憲吾の左腕に抱きついた。
「あ、菫子ずるい！それじゃあ、私は右半分をもらうからね」
薫子も負けじと右腕に抱きついた。双方の腕に同じくらいの柔らかい感触が伝わり、憲吾は思わず顔を赤らめた。
「他のひとに取られないように、あなたの左腕に名前を書いておこうかな」
「私もそうしようかな」
「おいおい。頼むからそれはやめてくれ。洒落になっていないぞ」
憲吾は慌てて釘を刺した。彼女たちのことだ、このまま何も言わなければ、本気でやってしまうだろう。注意されて、心の底から残念そうにしているのが何よりの証拠だ。
「仕方ないな。薫子、左半分は私の担当だからちゃんと覚えていてね」
「分かったわ。そのかわり、菫子も私が右半分の担当だってことを覚えていてね」
「了解」
いつの間にか彼女たちは、勝手にお互いの役割分担を決めてしまった。
───俺の意思は無視ですか・・・
憲吾は心の中でため息をついた。
憲吾たちが向かった場所は、駅前から出ているバスに乗り、１５分ほどのところにある遊園地だった。
園内にこだまする無邪気な子供の笑い声。
行き交う人々に風船をくばって歩くマスコットの人形たち。
緑の芝生が敷き詰められた広場。
園内は休日ということもあってか、家族連れを筆頭に多くの客で賑わっていた。
『ほら、早く行こうよ』
中に入ると、薫子と菫子が同時に手を引っ張った。
「おい、そんなに慌てなくても乗り物は逃げないぞ」
「乗り物は逃げなくても、あなたと過ごす時間は逃げるわよ」
と言って足早に歩く菫子。
「そうそう、あなたと過ごすせっかくの時間を１秒でも無駄にしたくないから早く行こっ」
薫子も同じように歩くペースを上げる。
次々とアトラクションを回るふたりの行動力は、パワフルのひと言に尽きた。ひとりでも十分すぎるほどの行動力を持っているのに、それがふたりともなれば、付き合う人間の苦労は半端なものではない。通常の２倍、いや、彼女たちの場合は２乗の体力を使わなければならなかった。しかも、ジェットコースターなどペアの乗り物については、不公平がないようにと２回乗る羽目になり、憲吾はすっかり乗り物酔いをしてしまった。
「さてと、次はどこに行こうかなあ・・・」
「ち、ちょっとタンマ・・・少し休憩しよう」
憲吾は、人差し指を頬に当て考え込む菫子に頼み込んだ。さすがにこのままでは、体がもたないと判断したからである。
───このふたりは、どうしてこんなに元気なんだ？
平然としている双子の姉妹に、思わず感心してしまう。
「え、もう休みたいの。仕方ないわね。それじゃあ、あそこのベンチで少し休みましょ」
薫子の了解を得た憲吾は、半分よろめきながらベンチまで行き、全身を預けるように座った。そのあと、すぐに薫子が右側、菫子が左側に腰掛ける。
「こんなに楽しいと思ったのは初めてよ。これもあなたのおかげね」
菫子は嬉しげに憲吾の顔を見た。
「ほんとだね。私もすごく楽しいよ。今日という日がずっと続くといいのになあ」
薫子は少し残念そうな表情を浮かべた。
「別に今日が最後というわけじゃないだろ。また何度でも来ればいいさ。俺たち３人でね」
「それって、これからもずっと私たちと一緒にいてくれるってこと？」
「そ、そういうことになるかな」
憲吾は照れくさそうに頭をかいて、薫子の質問に答えた。
「エヘへ、あなたにそう言ってもらえるなんて嬉しいなあ。ねえ、菫子」
「うん、そうだね。それじゃあ、私たちもふたりがかりであなたのことを愛してあげるね！」
菫子は無邪気な笑顔を浮かべた。
「あ、ありがとう・・・」
薫子の大胆な発言に戸惑う憲吾。
『ウフフフ』
そんな彼の仕草に、双子の姉妹は顔を見合わせて笑った。憲吾はさらにほんのりと赤くなった顔をさらに深く染めた。
「休憩はこれで終わりにしよう」
憲吾は恥ずかしさをごまかすかのように、勢いよく立ち上がった。
「さて、今日はとことん薫子と菫子に付き合うよ。１秒でも長くね」
と言って、両手を双子の姉妹に差し出した。
「そうこなくっちゃ！」
とびっきりの笑顔を浮かべ、菫子が憲吾の左腕に飛びついた。
「ありがとう！今日は３人でいっぱい楽しいことをしようね！」
薫子も同じ笑顔で右腕に抱きつく。
───今日は無事に帰れるかな・・・
憲吾は一抹の不安を覚えながら、双子の姉妹を両脇に従えて歩き出した。