Steife Brise
Dulce Labios

学校から家に帰る途中、私は信じられない光景を見てしまった。 それは愛しの私のお兄様が知らない女性と楽しそうに歩いている姿だった。 あの女のひとは誰・・・? 激しい動揺が走る。 どうしてお兄様はあんなに楽しそうに笑っているの? 私は制服のシャツの胸元をギュッと握り締めた。 膨れ上がる不安・・・ 湧き上がる悲しみ・・・ 今すぐにでも、お兄様のもとに駆け出したい! しかし、無意識のうちに頭の中の想像が現実になることを怖れて足がすくみ、私はただお兄様の一挙一動を目で追うことしかできなかった。 あんなお兄様なんて見たくない! そう思った瞬間、全身にかかっていた金縛りが解け、私は弾き出されるような勢いでその場から走り去った。

現実から逃避するように家へ戻った私は、玄関のそばにあるリビングでお兄様が帰って来るのを待った。 ちらりちらりと時計を見るたびに、一日千秋の思いが募る。 初めは10分おきに時計を見ていたが、やがて7分、5分と間隔が短くなっていき、気がつけば1分おきに見るようになっていた。 こうしているあいだにもお兄様はさっきの女のひとと・・・ 私は次々と浮かび上がる嫌な予感を慌てて打ち消した。しかし、予感はとどまることを知らなかった。 私は心を押しつぶそうとしている不安に耐えるように、自分の体を両腕で抱きしめた。 そのとき、玄関のドアが開く音が耳に入った。 お兄様だわ! 私は居ても立ってもいられず、リビングを飛び出し、玄関に向かった。 お兄様は、慌てて出てきた私を見て、不思議そうな顔をしていた。 お兄様・・・ 私はすぐにお兄様のそばにいた女のひとのことを尋ねようと思った。しかし、肝心の言葉が口から出て来なかった。 知りたいと思う願望と知ることに対する恐怖心が激しくぶつかり合い、それが私に逡巡をもたらした。 そんな私に対し、お兄様がどうしたのかと尋ねてきた。 その声が引き金となって、私はついに重い口を開いた。 お兄様・・・お兄様とあの女のひとはどういう関係なの? 震える声で尋ねる。 その疑問にお兄様は一瞬、驚きの表情を見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべながらただのクラスメートだと答えてくれた。 一番望んでいた答えだった。しかし、何故か私の心から不安が消えなかった。 そのときだった。 突然、お兄様が微笑みながら右手を突き出して、指先でそっと私の唇に触れた。そして、その指を自分の唇に当てた。 そ、それって・・・ お兄様の仕草が意味するものに気づき、全身が激しく火照りだした。 や、やっぱりお兄様も私のことを・・・ 先ほどまでの不安が一気に消え去り、代わりに甘いトキメキが芽生え始める。 お兄様、私もお兄様が大好き!だから、ほかの女のひとなんかに絶対に渡したりなんかしない!だって、私が一番お兄様のことを愛しているんだから! そう、お兄様への思いの強さは誰にも負けない。 兄妹だからといって、この気持ちだけは譲るつもりはない。 たとえ結ばれなくても、お兄様を愛し続けることはできる。ずっとそばにいることはできる。 お兄様、ラブよっ! 私は心の中でそう言って、勢いよくお兄様の胸に飛び込んだ。